お侍様 小劇場

    “聖夜の訪のい” (お侍 番外編 75)
 


それは つましい廐にて、産声を上げた我らが御主の子。
寒い晩だというに樹にはみずみずしいリンゴが実り、
ベツレヘムの星に導かれ、
東方より来たりた3人の博士がその生誕を祝福をした。

 それがそもそもの“クリスマス”の由来なのだけれど。

キリスト教徒じゃあない民らには、
そういう“教え”も後づけで広まった…というのは よくある話で。
日本で“クリスマス”がこうまで広まったその切っ掛けは、
年末の大人らの馬鹿騒ぎ…もとえ、
忘年会とやらで酔っ払って帰るお父さんがたへ、

 『お家で待ってるご家族へのお土産にケーキはいかが?
  何と今宵は西洋では“クリスマス”というお祝いの日…』

なんてゆ謳い文句と共に、
まだまだ贅沢品だった西洋菓子の“お披露目”も兼ねて売り出した
…のが始まりと言われてる。
常緑のクリスマスツリー、街角に立つ聖歌隊、
トナカイが引くソリに乗ったサンタクロース…の由来も知らぬまま、

 『そういう日、なんだってサ』

そんな始まりで浸透してったお祭りだったので、
ベツレヘムの三賢人の存在よりも、
今年1年いい子だった子供らへ贈り物をくれるサンタクロースが、
先に親しまれたのもまたしようがなかろう。
冗談抜きにサンタクロースの誕生日と答える人も少なくはなかったそうであり、
聖バレンタインデーの急速な広まりといい、
製菓関係の宣伝能力、恐るべし…でございます。



     ◇◇◇




 そこはやはり西洋の祝い事なので、御馳走も洋風なものをとつい思うところであり。シャンパンでの乾杯に、これは外せないケーキにチキン。パーティーメニューと来るなら、クラッカーに酒肴を乗っけた各種カナッペに、ピザや ひょいと摘まめるサンドイッチやスティックサラダ。

 『でもそれじゃあ、講演つきの立食パーティーみたいですものね。』

 たくさんの人との出会いの場、人脈開拓のパーティーならいざ知らず。親しい人たちと寛ぎたいっていう会食なんですから、もっとちゃんとしたお食事にした方が…と。ローストビーフに、肉だんごの甘辛あんかけ。ポテトサラダに、カニがたっぷり入ったグラタンコロッケ。エビフライに串カツに、そうそう久蔵殿のお好きな茶わん蒸しも作りましょうね。

 『えっと、それから。』

 野菜もとらなきゃいけませんよね。ポトフ…いやいや いっそのことロールキャベツとか? それともそれとも…あ、そうだっ!

 『………シチ。』
 『いくらなんでも、
  そこへクエ鍋というのはいきなり趣向が変わってはおらぬか?』

 そうですか? この時期に野菜を採るにはナベが一番なんですが、と。放っておいたら、焼き鳥にお造りにと、どこまでもメニューを増やしたに違いない、お料理上手のおっ母様へ。そういうのは年越しや新年会へ回しなさいと説得する勘兵衛だったの、居間へと出された大きめのツリーへ金の鐘だの赤いリボンだの飾りつつ、こたびばかりは“頑張れ”と。表向きは寡黙なままながら、その内心で応援した久蔵殿だったりもしたそうです。その証拠には、ついつい握り締めてしまったので、毛並みが寝ちゃったモールが数本出来ちゃったことで、こちらも無言のままに物語っていたりして……。
(苦笑)


  そんなこんなで迎えた今日は、
  いよいよの聖夜の前日、クリスマス・イブ。


 この日までの装飾は、さほどに派手にもしないまま。せいぜいが、ドアノブに提げるオーナメントや、門扉に小さめのリースを飾る程度に押さえていたけれど。晩餐はお隣りさんとの合同で、ミニパーティーとするのが恒例なので。その支度にと、ツリーには電飾を巻きつけ、テーブルを移動して来ての特別なクロスを広げて席作りをし、花を生けたり、フロアライトを増やしたり…と。楽しい催しへの準備、そりゃあワクワクと楽しく進める、七郎次とそれから、

 「あ、その鉢は右へ寄せていただけますか?
  …そう、その辺りです。」

 ポーチに居並んだ愛らしいプリムラの鉢を、そこもまた通り道にするため、少し広げる移動を手伝うは。通う高校の剣道部の冬休み練習が“休止”となったという次男坊。頭にいただく金の綿毛の輪郭を、丁度庭先に差し込んでいる、やわらかな寒陽に甘くけぶらせながら、母上の丹精こもった小さな鉢の数々を、1つ1つ丁寧に持ち上げては脇へと退ける“お引っ越し”にかかっており。

 「お、やってますな。」

 生け垣越し、お隣りの五郎兵衛殿がお声をかければ、

 「……。//////」

 そのお声に籠もってた“お手伝いとは感心感心”という含みを拾ってだろう、絖絹を張ったような真白な頬に、ほのかな緋が差すところが、

 “おやまあ、愛らしいことよ♪”

 ともすりゃ、仏頂面で無愛想なばかりの少年…なんてな評もされかねぬ彼だそうだが、そんなの大きな間違いと、この含羞みっぷりを見りゃすぐにも判る。七郎次絡みの褒め言葉へは、もっとずっと幼い子供のような、そりゃあピュアな反応示す青年なのへ。何とも かあいらしいことよのと、くつくつ微笑いつつ、そのおっ母様に呼ばれて去ってった背中を見送れば、

 「ゴロさん、ゴロさん、そっちのケーブル取ってくださいな。」
 「おうよ。」

 こちらはこちらで、島田さんチのリビングからよく見えるようにと、ご自宅の屋根や壁へとイルミネーションを這わせたり、ライティングのコーデュネイトを凝ってみたりと。やっぱり忙しそうな平八が、高い脚立の上から“お〜い、お〜い”とお声を掛けて来るせわしさで。

 「あまり張り切り過ぎて落ちないでおくれよ? ヘイさんや。」
 「その辺は抜かりませんて。」

 今年のライティングはね、冬の花火を狙ってみたんですよ? あんまりチカチカさせるのも眸にうるさいんで、ナイヤガラって花火みたいな、光のカーテンがさわさわたなびくような…と。こちらもこちらで楽しい演出になるよう、工夫を凝らしておいでならしく。数日続いた急な寒波が少し緩んだのを幸いに、屋外での作業をてきぱき進めておいでの模様。

 “そうそう、お隣りさんへも差し入れしなきゃあねぇvv”

 通りすがったキッチンの小窓からそんな様子をちらりと眺め、そろそろお昼の用意をしなきゃあと、忙しいことこそ繁栄の喜びと言わんばかりに にっこり笑い。おむすびがいいかなぁ、お稲荷さんの方が食べやすいかしらと、次のお仕事とその段取り、はやばやと考えていた島田さんチのおっ母様だったりするそうです。

  ―― 年末には、一家に一人、
     ほれほれ仕事してと尻叩きに来てほしいぞ、シチ母さん。





     ◇◇◇



 会場準備がそのまま、大掃除の前哨戦も兼ねているものか。窓ふきや電灯の掃除なぞへも手をつけていたらしい七郎次が、機敏にパタパタと駆け回るのが、大窓からも望めたものの。それにしたって、日頃から どこもかしこもぴっかぴかにしているお宅なので、特に汚れているところなんて見つからないだろ島田さんチ。

 「う〜〜〜んっと、もう無いかな?」

 今宵の宴にはあんまり関係ないはずの、お風呂場もキッチンも、お二階のサンルームまで。調度のいちいちは言うに及ばず、窓や床や壁までも、毎日の丁寧な磨きようで綺麗なその上へ、点検を兼ねてという空ぶきをして回ったおっ母様。もう無いかもう無いかと、どこの競りですかというよな言いようをしつつ、空
(ソラ)であちこちを思い浮かべちゃ数えていたようだったが。さすがに もはやどこも磨くところは無しと、正午を回ったところで ようよう諦め…もとえ、納得したらしくって。

 『久蔵殿のお嫁に来るお人は、
  あのシチさんのお眼鏡に適わねばならないのですね。』

 こりゃあ大変な難関でしょうねと、いつだったか平八が笑ったことがあったのも頷けるというもので。ちなみに、そんなお言葉もらった当の久蔵殿はというと、

 『……?』

 ひょこりと小首を傾げるという反応を見せたのですが……さあ此処で問題です。

 @嫁をもらうなんて、
  全くの全然考えていなかった想定外な話題だったので、
  理解が追いつかなかった

 Aこうまで完璧にこなすシチが居るのに、嫁が必要だろうかと思った

 Bそれはお父さんのでしょという筆者のツッコミへ
  “それとはなんだ”と 怒
(イカ)るまでのインターバルが微妙にかかった

 Cその他

 ……という冗談は、まま置いといて。
(おいおい)


 「それじゃあ、お料理のほうの下ごしらえにかかりますかvv」
 「……♪」

 小半時ほどの食休みをとってから、いよいよのメインイベントへとお支度が移るの告げられて。自分からは見えにくい、小指の側にくっつけていたご飯粒を、摘まみ取ってもらってた久蔵殿のお顔が晴れやかにほころんだのは、

 『そうだ、ケーキは久蔵殿にも頑張ってもらいましょうか?』

 母の日にって、あんな美味しいシフォンケーキを焼いてくださったでしょう?と。ちゃんと覚えていたおっ母様、期待を込めてのこと、そりゃあうっとり微笑って下さったとあっちゃあ、受けて立たなきゃ男がすたる。お膝の上にて拳を握り、うんとしっかり頷いて、頑張りますとの意欲を見せてたそのお仕事を、いよいよ着手するときが来たワケで。

 「お料理のほうでオーブンを使うのは夕方になってからですから。」

 切っておいたり煮ておいたりというものが無いワケじゃあないから、キッチンには私もご一緒しますけれど。お邪魔はしませんから勘弁して下さいませね?なんて、遠慮がちなお言葉こそ心外なこと。

  ちょこっとは手伝って下さい、と

 七郎次が着ていた緋色のカーディガンの裾をちょいと引いての、恥ずかしさ半分、慎ましやかな甘えようも愛らしかったのが また。何て奥ゆかしい良い子なのでしょかと、そんな話を寝物語に持ち出された 壮年の御主様が、ちらっと妬くほどの手放しで、おっ母様が褒めちぎったのは言うまでもなくて。

 焼き型やカップに秤、
 ボウルと泡立て器に、クッキングシートを準備して。
 小麦粉にサラダ油、卵は卵白と黄身とを分けて。
 砂糖に生クリームに、
 デコレーション用にはカラフルなチョコスプレーを用意して。
 慎重に測った材料を、さっくり混ぜたり泡立てたり。

 「………?」

 ふと気がつくと、自分の作業の手を止め、こちらをじぃっと見やってなさる、おっ母様なのへと時々面食らいながらも。
(笑) 一応はと五郎兵衛さんに書き出してもらった、手順のレシピを首っぴきにしもっての作業。久々にしては手際よく、オーブンへと任せるまでを、ちゃっちゃと進めてしまった久蔵殿であり。

 「大したものですよねぇ。」

 自分は小さいパウンドケーキを焼くのが関の山だからか、何てお上手なことだろかと、七郎次が感心しきりになっている。ムラが出来ぬかとの混ぜ過ぎで、かっちかちの堅焼き煎餅にしちゃったり、中まで火が通るんだろかと、気になってしまって他のことが出来なくなりそでと。現に今も、チキンの丸ごとローストに使うのだろ、タコ糸を手にしたまんま、オーブンをしきりと見やってばかりのおっ母様であったりし。白いお顔が、やや不安げに、でも甘い香りにはうっとりしつつ、期待を込めて見守って下さる様は。久蔵にとっても嬉しいし、これ以上は無い眼福ではあるけれど、

 「……。」
 「…あ、そうですね。茶わん蒸しの下ごしらえも。」

 冷蔵庫から百合根とギンナンを取り出し、これはどうしたらいいの?と、小首を傾げて訊いて。そうやって自分の作業に戻っていただいた辺り。おっ母様の操縦法のようなもの、次男坊の側でも、実は心得ているのかも知れなかったり?
(う〜ん)

 「さて、それじゃあvv」

 調理台の前へと並び、今宵のゲスト、平八さんが大好物だという肉団子の下準備、豚ミンチに刻みショウガを和えたタネを、こねて丸めて、素揚げにしたり。大きめのエビ、殻を取って隠し包丁を入れて真っ直ぐにし。一番最初に作っておいた、カニ入りホワイトソースを冷凍庫で冷やしたのと共に、パン粉をつけてから冷蔵庫で待機させたりと。他のことして待っておれば、

 やがて芳ばしい香りがし、
 チンと軽やかにチャイムが鳴った

 ほれほれと背中を軽く押されて促され、素早く扉を開けて、串を刺してみて焼き加減を見。何もまとわりついて来ないのでと火を落として。オーブンから取り出したら、型の中央が飛び出してるところを脚にし、逆さまにして粗熱を取るべく、またまた待機。

 「今度はデコレーション用の生クリーム作りですね?」
 「…。(頷)」

 生地用のメレンゲもそうだったけれど、泡立てりゃあいいってものじゃあないながら。さりとて、力を込めての一気にかからにゃ、分離してしまいかねぬので。小わきに抱えたボウルの中、泡立て器をちゃかちゃか音立てて、小気味よく動かし続けるのは結構な重労働だったりし。途中で手を止め、掬い取っては粘度を見、角が立つまでと頑張って頑張って。

 「……。」
 「あ、これですね。」

 もこりと膨れてた底の部分を整えたスポンジ、のちに大皿へと移しやすいよう、径が一回り大きめの厚紙の下敷きを敷いた上へと乗せてから。さあと、デコレーションへと取り掛かる。七郎次から渡された、超薄刃のパレットナイフで純白の生クリームを掬っては、それを乗っけてのくるんくるんと、まずはの下地、コーティングを整えてゆくのだが、

 「……うわぁ。」

 紐を結んだり、自分の髪を整えたりは苦手なくせに。魚の小骨を取り除くのも、面倒がってのなかなか上手になれなんだのに。小さな粘土細工を作ったりするような方面へは、そういや不思議と器用な久蔵殿だったようで。お菓子作りもまた、この様子だと彼には得意な作業に当たるよう。

 “…けれど、木曽のお屋敷では無縁でしたものね。”

 小さな子供が彼以外には居なかったせいだろか。初めての訪問を構えたおりにも、お手製らしい和菓子や果物ばかりが出たもので。ずっと縁のないままにいた彼なのだろなと思ってのこと、その後は…遊びに行くときはいつも、お土産にと洋菓子を欠かさずに持ってった七郎次であり。無邪気に喜んでくれるのが、久々の再会と同じほどに嬉しかったのだけれども。

  自分の幼いころとは、全く全然 事情が違う

 それなり以上のお屋敷住まい。言えば用意してもらえたろうに、それでもこの自分が持ちこまにゃ、口にはしえない特別な甘味。何でねだらないのかと、不思議に思ってお傍衆のお一人へ訊いたことがあったのだけれど、
『…さあ、わたくしには判りかねます。』
 初老の婦人は小首を傾げ、でもでも、決して苦手なのではありませぬ。無理をしているのだとの誤解はなさらぬようにと、そっちの念も重々と押されたもので。

  それは判ってはいたけれど

 当時からおねだりが苦手な子だったのだろか。けれど、だったらあのツタさんが、こそり作るなり買っておくなり出来ただろうに。毎回、どこかおっかなびっくりという食べようをしていた彼だったのは、セロファンをはいだりフォークを使ったりがいつまでも不慣れなままだったのは、食べ慣れてはいないからだろうと思われて。それでと…当人へ聞いたらば、

  ―― だって、シチがいないのだもの

 ケーキを持って遊びに来るお兄さん。大好きな七郎次が来ている時に付き物なのが、甘い生クリームの風味のはずで。七郎次がいないのにケーキだけあるのって、何だか…と、ちょっぴり項垂れてしまった坊やだったのへ、

 “……ほんに気の利かない鈍チンですよね、私ってば。”

 そんな理由で日頃は食べないのだと、そうと言われて こちらこそが泣きそうになったのまでを思い出し、
「?」
「あ。いえいえ、何でもありません。」
 今の今、何へとそうまでしみじみしているものか。不審なことよと手を止めてまでこちらを向かれ。あわわと慌てたおっ母様が…あらためて見やったケーキには、

 「…おお。」

 ムラもなくのそりゃあきれいに、なめらかなクリームのお化粧がなされた上へ。小さめの三角の袋へと詰めたクリームにての、パイピングという飾り絞りが始まってたところ。さっくりしたシフォンケーキなので、中にイチゴやクリームを挟まず、一口毎に、添えられたクリームと食べるのがセオリー。これもそうする予定ではあるけれど、クリスマスらしいデコレーションもしておこうと、久蔵と七郎次で話し合ってのこの運び。だったので、ショートケーキにするような、バラだのフリルみたいな波なみだの、星の口型から飾ったとんがりだのは載せないけれど。細い細い線描きで、チェックの模様とそれから、チョコレートへピンクのクリームで縁取って、“Merry X’mas”と入れる予定。それをと取り掛かっていたのへ、

 「相変わらず、細かいことがお得意ですよねvv」
 「〜〜〜〜。////////」

 いえそんな、えっとうっと…と、途端に口許をうぬむにと咬みしめ たわめる照れようがまた、七郎次には可愛くて可愛くて…愛おしくってしょうがない。隠れんぼで泣きそうになった、ケーキを嬉しそうに頬張った、そんな木曽の坊やだったのが、

 “なんてまあ、ご立派になったことか。”

 絞り袋を持った白い手も、気がつけば…男の子のそれとして、節々が少しほど筋張っての、頼もしい形へと変わりつつあるような。道場での立ち会いでは、もはや七郎次では歯が立たぬ。勘兵衛相手でさえ、3本に1本は取ってしまうほどの練達におなりで、なのに、日頃はムキにはならずの余裕の構え。そうそう、七郎次の様子がおかしいときには、たいがい真っ先に気づいてくれるから、そちらの方でも油断のならない大人におなりだ。

 “置いてかれないように、私の側こそ気張らねば、ですよね。”

 いつまでも“いい子いい子”という構いようしか知らずにいると、不意打ちを差されての、こちらこそ庇われる立場にされかねぬ…と。それでは困るか、胸のうちにて静かに反省なさってるおっ母様であり。

  ???
  何でもありませんてばvv

 あ・ほら、手の頬ぺたにクリームが。どらと引き寄せ、お顔を伏せて。お行儀としてはいけないことながら、台拭きが手元に無かったのでと、ぺろりと直に舐め取って差し上げれば、

  〜〜〜〜〜っ☆////////
  久蔵殿?

 これが“確信犯”じゃあないところが困り者です、おっ母様。
(苦笑) そんなところへと鳴り響いたのが、
「…、あ・は〜い。」
 軽やかなチャイムの音がしたのは、そうそう そう言えば。

 「勘兵衛様かも知れませんね♪」

 さすがに クリスマス・イブの今日という日は、外資系の、しかも母国から出向して来た役員らは、軒並み早上がりして 家庭で過ごすことをば優先する。現場を奔走するクチの級以外は、この数カ月の更なる不安定な世情をも物ともせずに、そういう種のゆとりをもって過ごすものだとかで。新年へのカウントダウンを踏まえての、イベントやセレモニーへと後日に呼ばれるかもではあるが、それまではとの、余裕の“仕事納め”を言い渡されている勘兵衛らしいと訊いており。

 「久蔵殿も、一休みしてお茶にしましょう♪」

 それでなくともパイピングとやらって集中が要るのでしょうし、飾るところは私も見たいし、ネ?と。最後の“ネ?”がいかに凶悪かの自覚も無いまま、そりゃあ楽しげに玄関へと向かってしまわれる、おっ母様の後ろ姿を見送ってから。

  「…………。」

 勘兵衛の方が優先されるのは、彼こそが島田の一族の長、宗主なのだからしょうがない。正式には一族の者という名乗り上げをしていない七郎次もまた、有事の際にはその身を投げ出してでも、彼をば守る所存でおろうし。その上…それとは別な次元の、絆の存在、七郎次にとっては、今や掛け替えのない伴侶も同然の相手だ。………いやいや、単にお出迎えにと向かった母上の背中へ、そこまでをいちいち取り沙汰するのも大仰か?

  「………。」

 手元に見やるは、七郎次が褒めてくれたケーキの飾り付け。皆で囲むケーキというのは、そういや、こっちに出て来てから縁の出来た代物だ。甘いのが苦手な勘兵衛も、お義理にしてはしっかりと、切り分けられたのだけは食べ切るようにしていたような。

  「…、………。」

 そこまで思い出してのそれから、ふと。手元に持ったままだったパイピングのクリームを見下ろした久蔵。描いてる途中だった線描きの飾りの反対側へと差し向けると、何にも描く予定じゃ無かった空間へ、ちろちょろと絞り出して書いたのが

   『シマダ、○○○』

 直線ばかりの片仮名書きは、こちらへと戻って来た、家人らの気配とともに動かした、ナイフの一薙ぎでサッと塗り消せた他愛なさ。そ知らぬ顔で待ち受けたれば、

  「おお、すっかりと進んでおるのだな。」
  「ええ。久蔵殿がまた、物凄く頑張ってくれましたので。」
  「〜〜〜〜。///////」

 やはりの御主の帰宅と共に、和気あいあいとした空気の広がるキッチンだったが、


  はてさて、次男は何て書いて何で消したのかな なんて、
  野暮は訊きっこなしですよ? お客さんvv




      
Merry Christmas!!



  〜Fine〜  09.12.22.


  *はい。
   最後の最後の、久蔵殿のお茶目な悪戯、
   それだけが書きたかったお話です。
   なんてまあ長い前振りだったことか。
(笑)
   別段、深い感情が籠もってるそれじゃあありません。
   日頃の延長、他愛のない嫉妬ってヤツですよォ、お客さんvv

  *ちなみに、
   どんな咄嗟のお手伝いでも承りますと、
   (ex,突然の雨や突風になったなら、
      外へと飾ったあれこれを片づける人手に、など。)
   こそり控えている木曽の“草”の方々は。
   それと並行して、こういう“日常”の端々からも、
   次代様の価値観のようなものを拾い上げて身につけてゆくのだそうで。

   「はい、ここ試験に出ます!のノリなんかなぁ。」
   「なんか、偏った側近の皆様になりそやねぇ。」
   「せやなぁ。
    勘兵衛様に何かあっても、
    助けぇひん派閥とか出来へんか思たら怖いわ。」

    「そこはしっかり、深みのある判断力をと教育しております。」

   「お・出たな、木曽の高階のニイさん。」
   「このお人こそ、一等 久蔵の我ァだけを通しそで怖いていうねん。」

    ホンマやねぇ…。(う〜んう〜ん。)

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